野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
2. 主な野菜の生理機能
c. 果菜類
果菜類ではトマトに関し多くの研究がなされています。トマトのガン予防作用や抗酸化作用に関する研究が報告されています。
トマトには様々な栄養成分が含まれています。成分のひとつリコぺン(リコピン)は、トマトの赤い色素でカロテノイドの一種です。リコペンの働きとしてよく知られているのが抗酸化作用で、β−カロテンよりも強いことが示されています。体内の酸素のうち活性酸素は、反応を起こしやすく生体内で有害な酸化反応を引き起こし、ガン、老化をはじめとする種々の疾患の成因のひとつと考えられています。これを防ぐため抗酸化物質が必要となってきます。また、トマトはカロテンを豊富に含んでいます。カロテンはトマトの黄色の色素でビタミンAの前駆物質です。これは体内でビタミンAになります。ビタミンAには視覚機能の保持、成長の維持、身体を外敵から守る免疫の維持、皮膚や粘膜を守るはたらきがあります。他にビタミンC、セレンなどが含まれています。
またトマトと同じナス科であるピーマンの摂取が胃ガンのリスクを軽減したという疫学調査もあります(ヒト対象、Grahamら1990)。ピーマンにはビタミンC、ビタミンP、カロテンなどが含まれています。
トマト
ボランティアの長距離走者にトマトに含まれるリコピンと大豆由来のイソフラボンを60日間経口投与しました。走る前後の血中のDNAの損傷を指標に、抗酸化能の有無を調べました。その結果、両方の摂取により血中の酸化ストレスの減少が観察されました(Di Giacomo et al.2009) 1) 。
40歳以上の人に2週間リコピン制限食を与えた後、リコピンを8週間投与しました。その結果、DNAの損傷が抑えられ、酸化ストレスの減少がみられました 2) 。
新鮮なトマト、トマトジュース、リコピン飲料をヒトに摂取させたところ、新鮮なトマトとトマトジュースは血中の抗酸化能を上昇させましたが、リコピン飲料ではみられませんでした。また、新鮮なトマトあるいはトマトジュースの摂取によって、中性脂肪とLDL-コレステロールが有意に減少しました 3) 。
32人の喘息患者に低抗酸化食品を10日間与え、その後、トマト抽出物あるいはトマトジュースを7日間与え、喘息への影響を調べました。その結果、トマト抽出液摂取グループとトマトジュース摂取グループでは、気道への好中球の流入が減少しました。トマト抽出液摂取グループでは喀痰好中球エラスターゼ活性も減少しました。これらの結果から、抗酸化物質の摂取は喘息改善が期待されます 4) 。
トマト水溶性抽出物を健常者90人に投与したところ血液凝固を抑制しました 5) 。
治療薬を必要としないグレード1の高血圧患者31人にトマト抽出物を投与したところ血圧が有意に減少しました 6) 。
疫学研究において高リコペン食摂取による前立腺ガン発症抑制はみられませんでした 7) 。また、15mgのリコピンを含むトマト補助食品1日2回の投与は、46人のアンドロゲン非依存性の前立腺ガン患者に効果はありませんでした 8)。
56人の大腸ガン患者にトマトリコペン抽出物あるいは偽薬(プラセボ)を与えました。その結果、トマトリコペン抽出物摂取グループは、血中リコペン濃度が2倍に上昇しました。また、偽薬(プラセボ)グループよりインスリングロースファクター1(大腸ガンを含むいろいろなガンのリスク因子)が著しく減少しました 9) 。
トマトジュースの2週間の摂取は、体内の酸化の指標となる血液中のマロンジアルデヒドの量を減少させました。トマトジュースは体内での酸化を抑制しました。(Bubら2005)。
トマトジュースの摂取により、血中のカロチノイドやリコピン濃度が上昇し、酸化ストレスにより引き起こされるリンパ球のDNAの損傷が減少しました(Porriniら2005)。
分類 | 野菜名 | 主な含有成分 | 生理機能 |
---|---|---|---|
果菜類 | トマト | カロチン、リコピン、VC、セレン | ガン予防(+−)、免疫、抗酸化 脂質改善 |
とうがらし | カロチン、VC、カプサイシン | エネルギー代謝、消化管通過時間短縮 | |
ピーマン | VC、VP、カロチン | ガン予防 |