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野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向

5. 果物の機能性に関する研究動向

i. 食物繊維の健康機能性

食物繊維摂取と生活習慣病予防の関連性については、研究対象とする集団や病気は様々ですが、これまでに疫学研究や介入研究といったヒトレベルの研究で数多く報告されてきており、さらに、それらをまとめたメタ分析がなされています 1)

これまでの研究の解析結果から、食物繊維摂取には生活習慣病である冠動脈疾患(心臓病)、脳卒中、糖尿病のリスク低減効果だけでなく、これらのリスク因子に影響する高血圧、肥満の防止、さらに、血中脂質濃度、血糖値、血圧の改善効果などがあることが明らかになっています。

a)食物繊維摂取による心臓病予防

心臓の筋肉(心筋)に血液を供給している血管を冠動脈と言い、この冠動脈が動脈硬化などにより心筋に必要な血液を供給出来なくなると狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患(心臓病)となります。食物繊維を摂取すると、血圧が下がり、血液中の脂質やインシュリン感受性が改善されると報告されていることから、食物繊維摂取は冠動脈疾患に有効であると考えられていました。

アメリカやヨーロッパで行われている10件の疫学調査プロジェクトのデータをまとめて食物繊維の摂取量と冠動脈疾患との関係について分析が行われました 2) 。男性91,058人、女性245,186人あわせて約34万人を対象に6〜10年間追跡したところ、食物繊維を1日10g多く食べると、冠動脈疾患の罹病率が14%、死亡率が27%低くなることが分かりました。次に、食物繊維を、穀類由来、果物由来、野菜由来に分けて、冠動脈疾患との関係を調べたところ、1日あたりの摂取量が10g増えると、冠動脈疾患の罹病リスクは、穀類由来の食物繊維では0.90倍、果物由来では0.84倍、野菜由来では1.00倍でした。また、冠動脈疾患の死亡リスクは、穀類由来の食物繊維では0.75倍、果物由来では0.70倍、野菜由来では1.00倍でした。このことは、果物由来の食物繊維を摂取すると冠動脈疾患の罹病率では16%、死亡率では30%低下することを示しています。穀類由来の食物繊維も冠動脈疾患のリスクの低下(罹病率10%低下、死亡率25%低下)が認められました。この結果から果物由来と穀類由来の食物繊維は、冠動脈疾患の予防に有効であると考えられます。

b)食物繊維摂取による大腸ガン予防

大腸ガンは、大腸の内側に発生するガンで、生じた部位によって結腸ガン、直腸ガンとも呼ばれます。近年、わが国では大腸ガンが急速に増加しています。その原因には、高脂肪、低食物繊維食の欧米型食生活が影響しています。脂肪の多い食品を摂取すると、腸内で胆汁酸や腸内細菌の作用により発ガン物質ができます。この発ガン物質が大腸の粘膜と長期にわたって接触するとガン発生リスクが高くなります。

世界保健機関(WHO)に所属する国際ガン研究機関が組織したプロジェクトで、ヨーロッパ8ヶ国、519,978人を対象とした今までで最も大規模な疫学調査が行われました 3) 。その結果、食物繊維の摂取量が高いグループ(摂取食物繊維量31.9g/日)は、低いグループ(12.6g/日)と比べて、大腸ガンの発生リスクが25%低くなることが明らかになりました。さらに、食物繊維の供給源の違いに着目して、大腸ガンとの関係を調べたところ、果物由来の食物繊維では0.78倍、穀類由来では0.78倍、野菜由来では0.88倍、豆類由来では1.04倍となり、果物と穀類から摂取する食物繊維は、野菜や豆類から摂取する食物繊維よりも、大腸ガンの発生に対して、より抑制的に働く傾向にあることがわかりました。以上の結果から、調査を行った研究者たちは、食物繊維の摂取量が少ない集団が、摂取量を2倍に増やせば、大腸ガンのリスクが40%下がると推定しています。

日本人を対象とした疫学研究では、厚生労働省研究班による多目的コホート研究(JPHC Study)の一部として行われた解析の結果、大腸ガン発生リスクと食物繊維摂取量の間には統計的な有意差はありませんでした 4) 。この解析では対象とした集団を食物繊維摂取量で少ないグループから多いグループに男女各々5群に分けました。摂取量は少ない方から、男性は6.4、9.1、11.2、13.6、18.7g/日、女性は8.3、11.2、13.3、15.6、20.0 g/日でした。日本では食物繊維の摂取目標量は、1人1日あたり男性は19g以上、女性は17g以上(男女ともに18歳以上)とされています 5) 。女性で最も摂取量が多いグループのみが摂取目標量を満たしており、対象とした集団が、摂取不足の人の割合が高いこと、また、摂取量の幅が広くない集団であることが統計的な有意差が検出されなかった一因であると考えられます。

c)ペクチン摂取による血中コレステロールの改善

リンゴやカンキツ類等の果物には、水溶性食物繊維の一種であるペクチンを豊富に含みます。ペクチンは、1960年代前半の研究から血中の総コレステロールを低減する物質として報告されています。

Keysらは男性の健常者24名に対するヒト介入研究 6) で、被験者がペクチンを含むビスケットを3週間摂取(15g pectin/day)したところ、総コレステロールが5%低下する結果を1961年に報告しています。この報告を皮切りに、その後のヒト介入研究でも同様の結果が報告されています。

Cerdaらによる高コレステロール症患者27名に対するヒト介入研究 7) では、被験者がグレープフルーツ由来のペクチンを摂取すると、食事や生活習慣を変えることがなくても、コレステロール値(総コレステロール、LDL、LDL/HDL値)が有意に低下しましたが、善玉コレステロールのHDLには有意な影響はなく、血中脂質の状態が改善されました。Stasseらによる健常な若い男女62名(18〜28歳)に対するヒト介入研究 8) では、果物と野菜を多く食べたグループ(43g fiber/day)と食事にカンキツ由来ペクチンを添加したグループ(28g fiber/day)において、HDLは低下することなく、総コレステロールが低下しました。Knoppらによる51週間におよぶヒト介入研究 9) では、食物繊維を長期投与することで、総コレステロール、LDL、LDL/HDL値が低下することと、HDLの低下や中性脂肪の増加が無いことを報告しています。

 Kayらによる若い男女9名(18〜28歳)に対するヒト介入研究 10) では、被験者がカンキツ由来ペクチンを3週間摂取(15g pectin/day)すると、総コレステロールが低下し、さらに、糞便による脂質・コレステロール・胆汁酸の排泄量が増加しました。Juddらは同じカンキツ由来ペクチンでも高メトキシル化ペクチン(High-methoxyl pectin)と低メトキシル化ペクチン(Low-methoxyl pectin)の差異を検討したところ、両方ともコレステロール低下作用を示しましたが、その作用に有意な差はありませんでした 11)

 ヒト介入研究事例の蓄積をうけて、Brownらはメタ分析を行い、7件の研究報告に基づいて水溶性食物繊維のグラムあたりのコレステロール低下値を算出しました 12) 。ペクチンは1gあたり、総コレステロールを0.070mmol/l(2.69mg/Dl)、LDLを0.055mmol/L(1.96mg/dl)、それぞれ低下させると報告しています。これらの値はグアーガム等の他の水溶性食物繊維での値と比べて大きい傾向を示していました。

水溶性食物繊維には様々ありますが、果実に由来する水溶性食物繊維のほとんどはペクチンです。果実200gを摂取した場合のペクチンの摂取量を五訂増補日本食品標準成分表に基づいて推定すると、リンゴ(皮をむいて食べた場合)では0.6g、ウンシュウミカン(普通温州をじょうのう膜ごと食べた場合)では1.0gになります。

 以上の研究のように、ペクチンの摂取は善玉コレステロールのHDLを低下させることなく、悪玉コレステロールのLDLを低下させ、総コレステロールを低下させる効果があることがヒトレベルで実証されています。果実はペクチンを多く含む食品ですから、果実の摂取による血中コレステロールの改善が期待できます。

d)食物繊維を多くとる食事スタイルによる生活習慣病予防

食物繊維を魚介類、肉類、卵類、乳類といった動物性食品や、砂糖および甘味類や油脂類といった加工食品からは摂取することはできません。食物繊維の摂取源となる食品は、穀類、イモ類、豆類、種実類、野菜類、果実類、きのこ類、藻類といった植物性食品です。従って、動物性食品に偏ること無く植物性食品を多く摂取する食習慣は、食物繊維を多く摂取できる食習慣であるといえます。近年、被験者を食事調査標から食習慣スタイル別に分類する解析がなされています。

スウェーデンで実施された25〜74歳の男女3,452人を対象とした調査では、食品93品目の摂取頻度により5クラスターにグループ分けし、心臓血管疾患リスク因子との関連性が解析されました 13) 。5グループのうち、1つが“healthy”とカテゴライズされ、野菜、果物、高食物繊維食品、低脂肪食品の摂取が多く、脂肪と砂糖を多く含む食品の摂取が少ないグループでした。このグループを基準にして、他のグループとリスク因子であるBMI、血糖値、血中の脂質濃度等を比較しました。顕著であったのが、“fast energy”とされたグループでBMIが統計的に有意に高かったことで、このグループは野菜、果物、高食物繊維食品、低脂肪食品の摂取量が少なく、エネルギー密度(グラムあたりのカロリー)が高い食品の摂取が多いグループでした。

以上のことから、食物繊維の摂取源を一部の食品に偏らせるのではなく、色々な食品から万遍なく充分量摂取することが生活習慣病のリスク低減に大事であると考えられます。

(文責 田中敬一)


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