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野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向

5. 果物の機能性に関する研究動向

m. 三ヶ日町研究

国内主要果実であるウンシュウミカン(以下ミカン)にはビタミン、ミネラル、食物繊維等の重要な栄養素以外にも、近年その生理機能が注目されているフラボノイドやカロテノイド等の機能性成分が豊富に含有されています。近年の欧米を中心とする栄養疫学研究から、果物の摂取は野菜と同じくらいにがんや心臓病などの生活習慣病の予防に有効であることが明らかにされてきました。しかしながら日本人を対象とした栄養疫学的なエビデンスはまだ少ないのが現状です。果樹研究所ではミカンの健康効果をヒトレベルでより詳細に検討するため、国内有数のミカン産地住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を平成15年度から開始しています。

「みっかびミカン」のブランド名で全国的に有名な三ヶ日町は静岡県西部に位置し、浜名湖の更に奥の猪鼻湖に面した人口約1万6千人の町です。調査開始時は静岡県引佐郡三ヶ日町という一つの地方自治区でしたが、2005年7月に浜松市と合併し、その後、2007年4月の政令指定都市への移行に伴い、現在は浜松市北区三ヶ日町という地名に変わっています。三ヶ日町では住民の多くがミカン産業に従事しているため、ミカンの摂取量が著しく多い地区といえます。また一方で殆どミカンを食べないという住民もいるため、ミカン摂取量が幅広く分布している集団です。そのためミカンの健康効果を疫学的に検出しやすいという利点があります。

現在、国内外を含めて非常にたくさんの疫学研究が行われていますが、食と健康との関連に着目した栄養疫学研究も日本国内で多く行われています。疫学研究では調査を始めるにあたり、集団の設定や調査方法など研究デザインに関わる多くの重要なことをよく練らなければなりません。どの様な集団をどのような方法で調査するのか、また得られた結果は母集団を反映するものなのか、つまり研究成果を平均的な日本人に当てはめて考えられるのか?等です。

通常、栄養疫学研究ではある特定の食品に焦点を当て、その食品の健康効果を疫学的に検出しようとすることはあまり無く、多くは食品群としての解析が行われます。近年では緑茶や大豆に着目した解析結果が多く報告されるようになってきましたが、これらの研究は緑茶や大豆の摂取量が特に多い集団を設定して、研究が行われたというものではありません。近年の日本国内におけるミカンの摂取量を考えると、平均的な日本人を反映する集団では、ミカンの健康影響を疫学的に検出するのは難しいでしょう。その点、静岡のようなミカン産地では、殆ど食べない人からミカンシーズンになると毎日たくさん食べる人まで幅広く分布しています。このような集団を疫学研究の対象に設定すれば、ミカンの有用性を疫学的に検出できることが十分期待できます。

また、血中β-クリプトキサンチン濃度がミカン摂取量を極めて良く反映するため 1), 2) 、このバイオマーカーを用いることで食品摂取頻度調査の結果を用いて解析するよりもより精度の高い解析を行うことができます(野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向:果物の機能性に関する研究動向「β-クリプトキサンチンの不思議」も参照)。ミカンをたくさん食べている集団という点においては、偏った集団ではありますが、食品の機能性を疫学的に検出するためには有効な手段といえます。

三ヶ日町研究は2003年度から開始されましたが、2005年度からは新たに協力者の募集が行われ、骨密度調査も開始されました。現在、総計1,073名の方がこの調査の対象となっています。この調査ではミカンをはじめとする果物の摂取量やβ-クリプトキサンチンなどの血清カロテノイド濃度と、糖尿病や動脈硬化、肝機能関連、メタボリックシンドローム、骨密度との関連について縦断的に解析し、ミカンの摂取がこれら疾病の予防に有効かについて検討が行われます。日本を代表する厚生労働省の「がんの多目的コホート:JPHS Study」や文科省コホート「JACC study」に比べると疫学研究としてはかなり小規模ですが、ミカン産地住民を対象にした疫学調査ならではの研究データが得られるものと期待されます。

これまでのベースラインデータを用いた横断解析の結果から、ミカンをよく食べて血清β-クリプトキサンチンレベルの高い人では、(1)飲酒者におけるγ-GTPの上昇リスクが低い 3) 、(2)高血糖者における肝機能障害リスクが低い 4) 、(3)脈波速度で評価した動脈硬化度が低い 5) 、(4)インスリン抵抗性のリスクが低くい 6) 、(5)閉経女性では骨密度が高い 7) 、(6)喫煙者でのメタボリックシンドロームのリスクが低い 8) 、ことなどが明らかになりました。また最近では、(7)β-クリプトキサンチンなどカロテノイドの血中濃度が、喫煙・飲酒によって相乗的に減少する可能性を見出しました 9) 。これらの研究成果は何れも医学系の専門誌に公表され、最近では海外の大規模コホート研究の論文にも多く引用されるようになってきています。今後の追跡研究により、ミカンの摂取がこれらの疾病予防に有効であることが明らかにされるものと期待されます。

三ヶ日町研究では学術的な成果を専門誌に公表するだけでなく、調査研究で得られた結果については市の広報誌を通じて公表されてきました。また各調査協力者に対しては栄養計算結果の報告や健康相談等が実施されています。更には栄養疫学的な調査解析だけでなく、協力者の健康に対する意識調査についても検討が行われています。このような活動から、三ヶ日町研究は調査開始時においては町の重点保健福祉活動にも指定され、地域住民の公衆衛生活動にも貢献してきました。

(文責 杉浦 実)


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