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国産やさいの情報提供の推進

産地が保有する料理等の情報収集の調査報告
 W.総括

調査および報告 農業ジャーナリスト 青山浩子

いま以上に野菜をいかにして食べてもらうか――。このテーマをもとに、3か所の調査の総括として3つの切り口キーワードから報告したい。

1. 重要性高まる“生産者自らの手による食べ方提案”

産地が消費者にダイレクトに食べ方の提案を含めた販促活動をおこなうというのは、こに来て本格的に始まったといってもいい。

高知県のように「これまではJAと実需者(卸売業者、仲卸、量販店などのバイヤー)の間では密に交流を図ってきた」というところが大半だろう。だが、JAとさしの販売課門田係長が「(食の安全を気にする)消費者が聞きたがっているのは生産者の生の声」と指摘していたとおり、これからは生産者がダイレクトに食べ方や産地情報を伝えていくという行動が重要性を増していくだろう。健康への関心が高まっているにもかかわらず、野菜の需要が伸びないというギャップを解消していくには、作っている人が直接食べる人にもっとも効果的だ。

小売サイドは業績悪化にともなう人件費圧縮が加速化しており、店舗に配置する社員数が減らされており、店長と少数の社員を除けばパートやバイトで運営されている。こういった実情を踏まえても、産地自らが「販促をやらせてほしい」「開発したレシピをもとに試食宣伝をさせてほしい」という提案は諸手を挙げて歓迎されるだろう。

一方、JAとさしの事例からもわかるように、生産者自らが販促活動に参加したことによって営農意欲が高まるという相乗効果もあった。販促活動は消費者のメリットばかりでなく、消費者と直接、接することで生産者にも刺激、意欲を高めるきっかけとなるようだ。

今後、販促活動に力を入れていくJAや自治体は「販促は消費者のため」という位置づけにするのではなく、「最終的には生産者のためになる」という意識づけをすることも大切だろう。また生産、販売と販促を一体のもととし、「作ったものをどう売るか」ではなく、すでに売る時のことを想定しながら「食べる人が喜ぶものを作ろう」「どう売り込めば喜んでくれる」という視点に立つことで、生産と販促を連動したものとして受けとめられる。

だが、産地主導で販促活動をするということは費用、労力すべてが産地側の負担になるということでもある。費用対効果をシビアに考え、どうすればこの販促活動が産地のためになるかという戦略を練った上で、取り組むことが欠かせない。JAとさしは試食宣伝をする一方で、アンケート用紙を配っていた。このように野菜を売り込むと同時に、消費者の意見を吸い上げるなど販促活動を複合的にいかす手法も一案だろう。

新座市の量販店に地場野菜を供給している「新座野菜生産倶楽部」は、量販店とともに販促に力を入れて、食べ方提案を熱心におこなってきたことが評価されて、地場野菜以外の特売セールの時にも、一定量を納められるようになったという。販促活動をいかして何をするかを常々考えていく必要がある。

2. 顧客層を広げるための工夫

日頃から料理をする消費者、ほとんどしない消費者と2極化が進んでいる。今後、野菜の消費拡大をしていくにあたり、「料理はしない」「面倒くさい」と思っている消費者に関心を持ってもらうころは欠かせないだろう。

JAとさしおよび新座市の場合、「地元の人が普段から食べる料理」「手軽に作れる」など特徴を出したレシピを開発していた。神奈川県綾瀬市のように「親子で作ると楽しい」という要素も関心を引いた。また、いずれの産地も対象となるその作物が苦手という人、料理そのものが苦手だという人を想定して「こうやって食べれば、手軽に作ることができます」という点もしっかりと盛り込んでいた。消費者アンケートを見ると、料理にかける時間が年々減っている。こういった動向も産地は把握する必要があるだろう。

また、従来のレシピ提案を一歩進めていくには、産地交流で高知県を訪れていた野菜ソムリエの女性が指摘していたように、“農産物”を売り込むのではなく、「ワンセットの食事のなかでのレシピ」「バレンタインデーにピッタリの料理」など、“食生活”そのものを売り込むなど消費者の気を引くようなアプローチが求められる。

さらに、JAとさしの女性部の人たちが痛感していたように、販促に“食育”の要素を含めていくことも大切な視点だろう。新座市のにんじんでは、「甘さ」をアピールすることでにんじん嫌いな消費者にも試食を手にとってもらうことに成功した。逆に、子供が試食を食べたそうにしていても、親が「嫌いでしょ?」とチャンスを奪ってしまえば元も子もない。親の先入観を打破できるような料理、食べ方、伝え方を研究していくことも大切だろう。

3. 外部マンパワーの活用

産地が主導する販促は消費者の購買意欲を高める効果があるが、産地がもっとも売り込みをしたい出荷のピーク時は、同時に農作業のピークでもある。また消費地に遠い遠隔産地の生産者が頻繁に消費地に出向くことも容易ではない。こうした場合、野菜のソムリエなどの人材を有効に活用することも妙案だ。

生産者の高齢化、離農は進み、産地の弱体化が懸念されているが、野菜の消費拡大のために産地にできることは山のように残されている。食べ方提案、消費者との交流を通じ、ものづくりにかける思いを伝えていくことなどだ。こういった財産を産地はまだ十分に生かし切っていない。どの産地が早くこのことに気づくかどうかは、産地の活性化にも大きく関わってくるだろう。

<参考資料>

サツマイモで生産者自らが販促に乗りだし、成功しているJAかとりの事例を紹介

「愛娘です。試食をどうぞ」
 「一口、いかがですか?」

スーパーの食品売り場で、焼きたてのサツマイモ「大栄愛娘(以下、愛娘)」をお盆にのせて、お客さんに差し出す女性たち。おそろいの赤のジャンパーがひときわ目立つ。彼女らはJAかとり管内で生産されるサツマイモ「愛娘」の生産者であり、販売促進部隊「愛(まな)ちゃん応援団」のメンバーでもある。

2月下旬、愛娘の販促会場となったのはスーパーダイエー松戸西口店。試食した人の多くが「甘くておいしい」と、愛娘を手にとって買い物かごに入れていく。その様子を見た子島茂雄店長は「生産者の方が来てくださると、売り場が活気づきます」と微笑む。

愛ちゃん応援団は、愛娘を生産する「甘しょ育成研究会」の会員の奥さん方が主なメンバーだ。3、4名で1チームを作り、愛娘の出荷期間である11〜5月頃まで断続的に販促をおこなう。シーズン中、販促回数はなんと30回以上に及ぶ。土日を中心に関東圏内のスーパーで展開する。「シーズン中、1人最低2回は売り場に立ちます。販促を行なうと愛娘だけで一日10万円、20万円売れるほどの勢いです」JAかとり西部営農経済センターの椿等副センター長はいう。

子嶋店長は「去年よりも愛娘を知っているお客様が確実に増えた」と話す。生産者にとっては「ようやくここまで来れたか」と胸をなで下ろす言葉かも知れない。

同JA管内である大栄・下総地区、香取郡神崎町一帯はもともとサツマイモの産地である。昭和30年代から「紅赤」という品種の生産が拡大。40年代には東京都内の市場でトップブランドまでのぼり詰めた。

しかしその後、予期せぬことが起こった。後発のなると金時(徳島県)、五郎島金時(石川県)といった他産地のサツマイモが大躍進し、市場での評価を高めていったのだ。そういった動きを尻目に千葉県では、50年代終盤からベニアズマに切り替えていった。ところが隣の茨城県でもベニアズマの生産が増え、生産過剰で価格が下落。平成6〜8年頃には、なると金時は卸価格で1箱(5s)2000円を維持しているのに、千葉県ベニアズマは500円しかつかないような時もあった。

「このままではダメになる」――。産地がこぞって一歩を踏み出した。JA、行政、普及センターの協力のもと、管内生産者が栽培している品種や試験場で選抜された品種から食味検査を繰り返した。その結果、地元農家が選抜した「高系14号」がもっとも食味がいいことがわかった。なると金時、五郎島金時なども同じく高系14号だ。平成13年には、選抜した品種を作りたいという農家を募って「甘しょ育成研究会」を発足させた。そうしてようやく誕生したのが愛娘だ。

だが本当のスタートはここから始まる。同研究会は、会員農家が出荷するすべての愛娘に対して食味検査を実施することにした。食味検査は週1回、会員自らが当番制で実施する。イモには番号だけがつけられ、どの農家が作ったかはわからない。味だけで判断し、点数をつけていく。50点以下は愛娘として出荷できない。「サツマイモは貯蔵方法によって食味が左右される。農家によって貯蔵方法が異なるため実際に食べてみるのがいちばんいいのです」と甘しょ育成研究会の高木昭一会長。この検査で基準に満たなければ、生産者が持ち帰って糖度が増すまでさらに貯蔵したり、別名称で出荷するようにした。一定の品質・食味を保つためである。

厳しい出荷体制を敷く一方、販促にも生産者自らが関わるようになった。研究会発足2年目、会員全員で東京都内の小売店を回った。愛娘がどのように売られているかを確かめるためだ。ところが、販売されているはずの小売店においてなかったり、名称が誤って表示されていたりしていた。せっかく厳しい基準を設けて出荷しても、生産から流通までの一貫した流れができていなければ生産者の思いは届かない。

同研究会は「生産者は作るだけ。JAに出せばあとはお任せ」という考え方にとどまることをやめ、販売、販促まで関わることを決めた。市場・仲卸関係者、小売店のバイヤーを含めた会議も定期的に開くようになった。ある時、仲卸業者から「販促は男がやってもダメ。女性がやらないとお客さんが逃げてしまうよ」という話が飛び出した。こうして生まれたのが「愛ちゃん応援団」だった。

研究会が発足した平成13年には、栽培面積は約4ヘクタールに過ぎなかったが、18年には約69ヘクタールまで増え、出荷数量は28万ケース。金額にすると約2.8億円を売り上げるまでになった。同JA管内は現在もベニアズマの栽培面積が圧倒的に多く、出荷数量では愛娘の10倍近く多い。しかし愛娘への取り組みをきっかけに、産地は変わった。「基準値に満たないイモの出荷はやめよう」、「自ら売り場に立って販促しよう」と決めた時、生産者には若干の抵抗があったという。「でもそれ以上に『なんとかしていこう』という前向きな声のほうが大きかった」と高木会長。その前向きな声が生産者の気持ちを動かした。産地全体を覆った危機感が、高品質なイモだけを出荷する責任、それを自分でも売る責任にかわっていったのだ。

愛ちゃん応援団が販促するスーパーでは、購入してくれたお客さんにアンケートはがきを配っている。5人に1人が返信はがきを送ってくるが、そこにはさまざまな意見が書いてある。「いままでに食べたことのない食感」、「甘くておいしかった」など好意的な感想が多いが、なかには厳しい意見もある。「こうした意見こそ大事なんです。次にどうしたらいいのかみんなで考えるきっかけになりますから」と高木会長は言う。

ひとたびブランド化に成功しても、永遠にブランドを維持していくのは難しい時代だ。常に次の一手を考え、行動に移していかない限り衰退してしまう。一度ブランドを失いかけた産地であるだけに、愛娘の生産者、関係者は気を緩めていない。「次にどうしたらいいか」という高木会長の言葉には、強い思いがこめられているように思えた。

(掲載誌 「月刊JA」〜広がれ、農と食のマーケット〜2007年4月号)


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